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「なんかいつもと違うって、思わない?」
夜、自宅でテレビを見ながら食事をしていると妻が私にそう訊ねた。
「なんだろう。」
妻の顔をしばらく見て、
「髪、切ったとか?」
全然変化は認められないけど適当に言ってみる。
「ちがーう。」
不満そうな表情をする妻。
「うーん。なんだろう。」
本当にわからない。

「わかんないかなー。あのね、お米、変えてみたの。」
「お米?」
そういえば、いつもより、少し柔らかいような。
改めてひと口、食べてみる。
「うん。言われてみれば、違うね。」
「でしょー。」
「銘柄は?」
「リアル米。」

「りあるまい?」
はじめて耳にする銘柄だった。
「知らないの?今流行ってるんだよ。予約して、今日やっと買えたの。」
妻は二杯目のごはんを私の茶碗によそる。
「現実世界から持ち込んだお米。だからリアル米っていうんだって。」
にわかには信じられないような話だ。
いったいどうやって現実世界から米を持ち込むというのだろう。
わたしは、二杯目のごはんを、今度は注意深く味わってみる。
そういえば、なんだか味にリアリティがあるような気がする。
「うーん。言われてみれば、確かにリアルな味だ。」
「でしょー。明太子と、すごく合うんだから。」
「うんうん。卵をかけても旨いかもなあ。」
結局その日、わたしはご飯を三杯も食べた。妻も珍しくおかわりをした。

次の日の朝。

テレビで謝罪会見をやっていた。
マスコミの前で、うつむき加減に謝罪の弁を述べていたのは、なんと、リアル米の販売元であった。なんでもこの業者、ただのヴァーチャル米を、リアル米と偽り販売していたのだそうだ。

「なあんだ。ただのヴァーチャル米だったのかー。」
妻はヴァーチャルパンにヴァーチャルバターを塗りながら言った。
「そりゃあそうだよ。現実世界の食材を持ち込めるわけないんだ。」
鏡の前にたってネクタイを結びながらわたしがそう言うと、
「昨日、リアルな味がする!って言ったじゃない。リアルな顔で。」
そう言ってヴァーチャル妻は笑った。
そういえば、そうだった。実際、いいかげんなものだ。

でも、ヴァーチャル空間で生まれて、ヴァーチャル空間で育ったわたしにとってのリアルとは、イコールヴァーチャルのことだ。リアル米と偽ったヴァーチャル米は、わたしや妻にとっては、やっぱりリアル米なのだ。

「それじゃあ、そろそろ、行くよ。」
支度を済ませたわたしは、ヴァーチャル犬のヴァーチャル頭をなでてやり、ヴァーチャル妻にかるくヴァーチャル手を振って、ヴァーチャル家を出た。

今日も、ヴァーチャル空は青い。
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